キャリアの考え方
45歳、会社にしがみつくのは悪いことですか?
日曜の夜、健一さん(48歳・メーカー勤務の課長)は、リビングでスマホを眺めていた。画面には「45歳以上 早期退職 募集増加」のニュース。会社で希望退職の噂が出始めたのは先月のことだ。転職サイトに登録する勇気はない。かといって、このまま定年まで逃げ切れる自信もない。「俺は、会社にしがみついているだけなんだろうか」。翌日、健一さんは知人に紹介された「45歳からの仕事研究所」の扉を叩いた。
「会社にしがみつく」のは悪いことですか?
健一さん
倫子さん、単刀直入に聞きます。48歳で転職する勇気もなくて、今の会社に残ろうとしているのは……要するに「しがみつき」ですよね。最近、自分がみっともなく思えるんです。
倫子さん
結論から言いますね。今の会社に残ること自体は、まったく悪いことではありません。むしろ45歳以降のキャリアでは、「残る」は4つある選択肢のうちの立派な1つです。
健一さん
4つ、ですか。
倫子さん
はい。45歳からの働き方の出口は、①今の会社に残る、②転職する、③雇用を維持したまま複業で収入源を増やす、④独立する。この4つしかありません。
そして統計的に言えば、大多数の人は①を選んでいます。厚生労働省の雇用動向調査ベースで見ると、45歳以上で実際に転職する人は同世代のごく一部です。残ることは多数派の、普通の選択です。
健一さん
でも「しがみつき」って言葉、世間ではすごくネガティブに使われますよね。
倫子さん
言葉の問題を整理しましょう。悪いのは「残ること」ではなく、「無防備に残ること」です。私はこれを「無防備なしがみつき」と「戦略的な残留」と呼び分けています。同じ「残る」でも、中身がまったく違うんです。
今日やること
- 「残る・転職・複業・独立」の4つを紙に書き、今の自分が何%ずつの気持ちかを書いてみる
なぜ45歳になると急に不安になるのか
健一さん
正直、40歳の頃はこんな不安はなかったんです。なぜ45歳を過ぎた途端、こんなに落ち着かないんでしょうか。
倫子さん
それは健一さんが弱くなったからではなく、45歳は制度上も市場上も「会社との関係が変わる年齢」だからです。理由は3つあります。
第一に、法律上の線引きです。国の雇用政策では45歳以上は「中高年齢者」と定義されます。行政の支援制度や助成金の区分が変わる、公式な節目なんです。
第二に、企業の制度です。早期退職優遇制度や希望退職の対象は「45歳以上」で設計されることが典型的です。役職定年も55歳前後に置く会社が多い。つまり45歳は、会社側から「その先」を意識させられる最初の年齢です。
第三に、働く期間が延びたことです。高年齢者雇用安定法の改正で、企業には65歳までの雇用確保義務に加え、70歳までの就業機会の確保が努力義務になりました。22歳から70歳まで働くとすれば、職業人生は約48年。45歳はちょうど折り返し地点です。
健一さん
折り返し地点……。後半戦がまるまる残っているのに、前半と同じ走り方でいいのか不安になる、ということですか。
倫子さん
その通りです。不安になるのは、健一さんの感覚が正常に機能している証拠です。問題は不安があることではなく、不安に対して何も準備しないことです。
今日やること
- 自分の会社の就業規則で「役職定年」「早期退職優遇制度」の有無と対象年齢を確認する
- 「自分は何歳まで働くつもりか」を一度数字で決めてみる(仮でよい)
「残る」を選んでいい人、危ない人
健一さん
じゃあ、僕は残っていいんでしょうか。それとも危ないんでしょうか。
倫子さん
状況別にはっきり言いますね。まず、残ることを軸にしていいのは、次のような人です。会社の業績と自分の部門が当面安定している人。社内で「この人に頼みたい」と名指しされる仕事を持っている人。住宅ローンや教育費のピークがこれから来る人。この条件に当てはまるなら、焦って転職市場に出る必要はありません。
健一さん
逆に、危ないのは。
倫子さん
3つのサインがあります。1つ目、自分の部門・事業が構造改革や縮小の対象になっている。2つ目、自分の仕事内容をこの3年間、社外の人に説明できる形で更新していない。3つ目、収入源が今の会社の給料1本だけで、貯蓄が生活費の1年分未満。
この3つのうち2つ以上当てはまる状態で「何もしない」のは、残る戦略ではなく、ただの先送りです。
健一さん
耳が痛いです。2つ目は完全に当てはまります。
倫子さん
大丈夫です、今日気づけたので。重要なのは、危ないサインがあっても答えが「すぐ転職」とは限らないことです。サインを消す努力は、社内にいながらできます。
今日やること
- 上の3つのサインをチェックし、当てはまる数を数える
- 当てはまったサインを1つ選び、それを消すための最初の一歩を書き出す
「無防備なしがみつき」を「戦略的な残留」に変える3つの行動
健一さん
残るにしても、何をすれば「戦略的」になるんですか。
倫子さん
やることは3つだけです。
1つ目、自分の市場価値を年に1回測ること。転職するかどうかに関係なく、職務経歴書を年1回更新し、転職サイトに登録して自分に届く求人のレベルを見る。健康診断と同じで、測るだけです。市場価値を知っている人の「残る」は選択ですが、知らない人の「残る」は消去法です。
2つ目、社外に名前を出す場所を1つ持つこと。業界団体、勉強会、資格のコミュニティ、複業でも構いません。会社の看板を外したときに自分を知っている人が社外に何人いるか。これが45歳以降の見えない資産になります。
3つ目、社内での「頼まれ方」を変えること。45歳以降に社内価値が上がる人は、プレーヤーとしての成果よりも、「若手が相談に来る」「部門をまたぐ調整を任される」といった、経験がないとできない役割で頼られています。自分の仕事を「作業」から「判断と調整」に寄せていく。これは残る人の最強の生存戦略です。
健一さん
どれも、明日から会社を辞めずにできることですね。
倫子さん
そうです。そしてこの3つは、万一会社に何かあったときの保険にもなります。残るための努力と、いざという時に動ける準備は、実は同じ行動なんです。
今日やること
- 職務経歴書を作る(まだない人は、まず職歴と実績の箇条書きだけでよい)
- 社外の場の候補を3つ書き出す(勉強会、資格、業界団体など)
それでも不安が消えないあなたへ——4つの出口の使い分け
健一さん
話を聞いて少し楽になりました。でも、この先も不安がゼロになることはない気がします。
倫子さん
ゼロにしなくていいんです。不安は消すものではなく、選択肢の数で薄めるものです。最後に4つの出口の使い分けを整理しますね。
会社が安定していて、社内での役割を作れる人は、①残るを軸に。社内に危険サインがあり、市場価値を測ったら評価が高かった人は、②転職を検討。残りたいけれど収入源1本が不安な人は、③複業で2本目の柱を。長年の専門性があり、組織の外で試したいことがある人は、④独立の準備を。
大切なのは、どれを選んでも「選んだ」という事実です。流されて残るのと、比べた上で残るのとでは、同じ毎日でも心の持ちようがまったく違います。
健一さん
僕はまず、残ることを軸にしながら、市場価値を測って、社外の場所を1つ作ります。
倫子さん
それは「しがみつき」ではなく、立派な後半戦の戦略です。健一さん、45歳は職業人生の折り返し地点です。前半戦お疲れさまでした。後半戦は、ここからです。
この記事の「今日やること」まとめ
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- 「残る・転職・複業・独立」の4つを紙に書き、今の自分が何%ずつの気持ちかを書いてみる
- 自分の会社の就業規則で「役職定年」「早期退職優遇制度」の有無と対象年齢を確認する
- 「自分は何歳まで働くつもりか」を一度数字で決めてみる(仮でよい)
- 上の3つのサインをチェックし、当てはまる数を数える
- 当てはまったサインを1つ選び、それを消すための最初の一歩を書き出す
- 職務経歴書を作る(まだない人は、まず職歴と実績の箇条書きだけでよい)
- 社外の場の候補を3つ書き出す(勉強会、資格、業界団体など)
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