社内サバイバル

役職定年で肩書と年収を失う前に——48歳からの準備

健一さん(48歳・メーカー勤務の課長)には、忘れられない光景がある。かつて自分を育ててくれた元部長の田島さんが、役職定年後、フロアの隅の席で一日中黙々とデータ入力をしている姿だ。あいさつをしても、力なく笑うだけ。「7年後、あれは俺だ」。その週の面談で、健一さんは倫子さんに切り出した。

この記事は4つの出口のうち「残る」を扱います
役職定年って、結局どういう制度なんですか?
健一さん
健一さん
うちの会社、55歳で役職定年なんです。尊敬していた元部長が、いまは新入社員がやるような仕事をしていて……。ああなるのが怖いんです。
倫子さん
倫子さん
まず制度を整理しましょう。役職定年は、一定の年齢——55歳前後に置く会社が多いですが——に達したら、部長や課長といった役職を外れる制度です。法律で決められた制度ではなく、各社が人事制度として任意に設けているものです。若手にポストを空ける世代交代と、人件費の調整が主な目的です。
健一さん
健一さん
法律の制度ですらないんですか。
倫子さん
倫子さん
はい。だからこそ会社によって扱いが全然違います。役職を外れても専門職として処遇する会社もあれば、田島さんのように役割を用意しないまま席だけ残す会社もある。
そして近年は、この制度自体が減っています。人事院の調査では、役職定年制がある企業は2007年の23.8%から2023年には16.7%まで減少しました。富士通やNECのように廃止した大手も報じられています。ただし従業員500人以上の大企業に限れば導入率は27.6%と依然高く、大きな会社ほど残っているのが実態です。つまり健一さんの7年後、制度がそのままある保証も、ない保証もありません。
健一さん
健一さん
じゃあ何を前提に準備すれば……。
倫子さん
倫子さん
制度がどうなっても困らない状態を作る、が答えです。これから説明しますね。

今日やること

  • 自社の役職定年の規程を確認する(年齢・処遇・給与の変化)
  • 役職定年後の先輩を2〜3人思い浮かべ、「腐った人」と「元気な人」に分けてみる
なぜあんなに優秀だった人が「腐る」のか
健一さん
健一さん
田島さん、現役時代は本当に切れる人だったんです。なぜあんなふうになってしまうんでしょうか。
倫子さん
倫子さん
結論から言うと、能力の問題ではなく、支えの問題です。役職定年で人が失うものは3つあります。肩書、年収、そして「自分は何者か」という物語です。この3つ目が一番効きます。
健一さん
健一さん
物語、ですか。
倫子さん
倫子さん
日本の会社員の多くは、「◯◯社の課長の自分」という形で自己紹介してきました。役職はただのポストではなく、アイデンティティの置き場所だったんです。役職定年は、その置き場所を制度的に取り上げる。年収減は家計の問題ですが、こちらは存在の問題です。だから優秀だった人ほど、落差で折れることがあります。
健一さん
健一さん
年収も実際、かなり下がるんですよね。
倫子さん
倫子さん
下がるケースが多数派です。ダイヤモンド編集部が大手企業を対象に行った調査では、役職定年で「年収1〜3割減」となる企業が53%。NTTや東京海上のように「55歳で年収3割減」と報じられた大手もあります。
ただ、ここで大事な視点があります。年収が下がることは7年前から予告されている、ということです。突然のリストラと違い、役職定年は日付が決まっている変化です。予告された変化に備えなかったとしたら、それは制度のせいではありません。
健一さん
健一さん
厳しいですね……。でもその通りだ。

今日やること

  • 役職定年後の年収を仮に3割減で計算し、家計が回るかを確認する
  • 「肩書がなくなった自分」を一文で自己紹介してみる。書けなければ、それが課題
腐る人と輝く人の分岐点はどこにあるのか
健一さん
健一さん
同じ役職定年でも、生き生きしている先輩もいるにはいるんです。何が違うんでしょう。
倫子さん
倫子さん
分岐点は3つ観察されています。
1つ目、「何で頼られるか」を役職以外に持っていたか。元気な人は、役職を外れても「あの案件の歴史を全部知っている」「あの取引先は彼にしか開けない」といった、属人的な頼られ方を持っています。役職は会社から借りたものですが、これは自分の資産です。
2つ目、年下上司への切り替えができたか。役職定年後は、かつての部下が上司になるのが普通です。ここで「俺の頃は」を言う人は孤立し、「今のやり方を教えてください」と言える人は重宝されます。プライドの張り方を、地位から仕事の質に付け替えられるかどうかです。
3つ目、社外に居場所があったか。会社の中だけで生きてきた人は、社内での立場の変化がダメージの100%になります。社外に勉強会でも複業でも趣味の共同体でも持っている人は、ダメージが相対化されます。
健一さん
健一さん
先週言われた「社外に名前が出る場所を1つ持つ」は、ここに効いてくるんですね。
倫子さん
倫子さん
その通りです。よく覚えていましたね。役職定年対策の大半は、45代のうちの仕込みで決まります。55歳になってから始めるのでは、正直、遅いんです。

今日やること

  • 自分が「役職以外で頼られていること」を3つ書き出す。3つ出なければ、それを作るのがこの1年のテーマ
  • 年下の同僚に、最近の技術やツールについて1つ質問してみる(練習)
48歳の今からできる準備——「第二の名刺」を作る
健一さん
健一さん
45代のうちの仕込み、具体的には何をすれば。
倫子さん
倫子さん
やることを「第二の名刺を作る」と呼んでいます。役職という第一の名刺が期限切れになる前に、それ以外の名刺を用意しておく。中身は3方向あります。
1つ目、専門性の名刺。自分の経験を「◯◯社の課長でした」ではなく「◯◯の専門家です」と言い換える。健一さんなら、たとえば製造現場と本社の間の調整を20年やってきたなら、それは「現場を動かせる企画者」という専門性です。言語化して、社内外で使い始めることです。
2つ目、資格・学びの名刺。50代の学び直しは珍しくなくなりました。国の教育訓練給付制度を使えば、厚生労働大臣指定講座の受講費用の一部が支給されます。2024年10月の拡充後は、専門実践教育訓練なら受講費用の50%(年間上限40万円)、資格を取って就職すれば70%、さらに賃金が5%以上上がれば最大80%(年間上限64万円)まで戻ります。資格そのものより、「この年で学び続けている」という事実が、社内外の見られ方を変えます。
3つ目、複業の名刺。会社が副業を認めているなら、小さく始める価値があります。週末に1件、自分の経験を活かした仕事を受けてみる。収入額よりも、「会社の看板なしで自分はいくらの値段がつくのか」を体験することに意味があります。これは役職定年後のモチベーションの、最強の保険になります。
健一さん
健一さん
役職定年を「終わりの始まり」じゃなくて、「第二の名刺に切り替える日」にする、ということですか。
倫子さん
倫子さん
うまいこと言いますね。その通りです。

今日やること

  • 「◯◯社の課長」を使わずに、自分の専門性を一文で書く
  • 会社の副業規程を確認する
役職定年と4つの出口——残る以外の道も見えてくる
健一さん
健一さん
ここまでの話は「残る」前提でしたけど、役職定年をきっかけに辞める人もいますよね。
倫子さん
倫子さん
います。だから4つの出口で整理しておきましょう。
第二の名刺を社内で活かせる見込みがあるなら、①残るが合理的です。役職定年後も居場所と役割は作れます。会社が第二の名刺をまったく評価しない環境で、市場価値を測ったら社外の評価が高いなら、②転職です。実は、役職定年で年収が下がった後は、転職時の年収比較のハードルも下がるため、55歳前後は「動きやすくなる」側面もあります。会社に残りつつ収入と自己肯定感の柱を増やしたいなら、③複業。長年の専門性で独り立ちできる目算が立つなら、④独立。役職定年で得た時間の余白を準備期間に使えます。
大事なのは、役職定年は「選ばされる日」ではなく「選べる日」にできる、ということです。7年あれば、名刺は何枚でも作れます。
健一さん
健一さん
田島さんの姿に怯えてるだけだった自分が、少し恥ずかしいです。やることが見えました。
倫子さん
倫子さん
怯えたから、今日ここに来たんですよね。それで十分です。健一さん、役職定年は職業人生の終わりではなく、後半戦のポジション変更です。背番号が変わるだけで、試合はまだ続きます。7年後のあなたは、フロアの隅ではなく、自分で選んだ場所に座っていますよ。

この記事の「今日やること」まとめ

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  • 自社の役職定年の規程を確認する(年齢・処遇・給与の変化)
  • 役職定年後の先輩を2〜3人思い浮かべ、「腐った人」と「元気な人」に分けてみる
  • 役職定年後の年収を仮に3割減で計算し、家計が回るかを確認する
  • 「肩書がなくなった自分」を一文で自己紹介してみる。書けなければ、それが課題
  • 自分が「役職以外で頼られていること」を3つ書き出す。3つ出なければ、それを作るのがこの1年のテーマ
  • 年下の同僚に、最近の技術やツールについて1つ質問してみる(練習)
  • 「◯◯社の課長」を使わずに、自分の専門性を一文で書く
  • 会社の副業規程を確認する

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