お金

45歳からのお金の設計図——退職金・年金・家計の結論

土曜の朝、健一さん(48歳・メーカー勤務の課長)は妻とけんかをした。原因は住宅ローンの繰上げ返済をするかどうか。「そもそもうちって、老後いくら必要なの?」と妻に聞かれ、何も答えられなかったのだ。「不安なのに、数字を何も知らない自分に気づきました」。週明け、健一さんは少し疲れた顔で研究所に来た。

この記事は4つの出口すべてに関わる内容です
「老後が不安」は、数字にした瞬間に小さくなる
健一さん
健一さん
お恥ずかしい話、老後資金って結局いくら要るのか、考えるのを避けてきました。「2000万円足りない」みたいな話を聞くたびに、見なかったことにして。
倫子さん
倫子さん
結論から言うと、「老後が不安」という感情は、「わが家はいくら足りないか」という数字に変換した瞬間、扱える大きさになります。そして他人の平均値——2000万円という数字も元は平均的なモデル世帯の試算です——は、健一さんの家の答えではありません。
やることは引き算です。老後の支出見込みから、収入見込みを引く。支出は現在の生活費から通勤・教育費などを差し引いて想像し、収入の柱は公的年金です。
健一さん
健一さん
自分の年金額なんて、わかるものなんですか。
倫子さん
倫子さん
わかります。毎年誕生月に届く「ねんきん定期便」に、これまでの加入実績に応じた年金額が載っています。50歳以上になると、今の働き方を続けた場合の見込額に切り替わるので、精度が一気に上がります。ハガキを捨てていた人は、「ねんきんネット」に登録すればいつでも試算できます。夫婦2人分の見込額を並べる。これが設計図の一行目です。
健一さん
健一さん
避けてきたものの正体を、まず見ると。
倫子さん
倫子さん
はい。実際に数字を見ると「思ったより年金がある」と感じる人も、「これは対策が要る」とわかる人もいます。どちらでも、感情で怯えるより百倍ましです。

今日やること

  • ねんきん定期便を探す。なければ「ねんきんネット」に登録する
  • 夫婦の年金見込額(月額)を1枚の紙に書く
退職金の基本——「いくらか」と「どう受け取るか」
健一さん
健一さん
退職金も、実は正確な額を知らないんです。
倫子さん
倫子さん
45歳で知らないのは普通です。ただ、ここから先は必須知識になります。確認は2段階。まず自社の退職金規程で、勤続年数と等級ごとの支給水準、そして早期退職時の扱いを見る。人事に聞きにくければ、規程集は大抵イントラネットにあります。
次に、受け取り方と税金の基本だけ押さえます。退職金を一時金で受け取る場合、「退職所得控除」という大きな非課税枠があります。枠は勤続年数で決まり、勤続20年までは1年あたり40万円、20年を超えた分は1年あたり70万円。たとえば勤続30年なら、800万円+70万円×10年=1500万円までは税金がかかりません。さらに枠を超えた分も、超過額の半分だけが課税対象になる仕組みで、給与よりずっと優遇されています。
健一さん
健一さん
じゃあ一時金でもらうのが得なんですか。
倫子さん
倫子さん
多くの場合は一時金有利ですが、企業年金として分割で受け取る選択肢がある会社や、確定拠出年金との受け取り順で税額が変わるケースもあります。ここは個別性が高いので、方向性だけ覚えてください。「退職金には大きな非課税枠がある」「受け取り方で手取りが変わる」。この2つを知っているだけで、早期退職の割増金の議論も、老後設計も、解像度が変わります。

今日やること

  • 自社の退職金規程を確認し、60歳まで勤めた場合の概算額をメモする
  • 自分の勤続年数で退職所得控除の枠を計算してみる(20年まで年40万円、超過分は年70万円)
年金は「いつから受け取るか」で変わる
健一さん
健一さん
年金って65歳からもらうものだと思ってましたが、違うんですか。
倫子さん
倫子さん
原則は65歳ですが、60〜75歳の間で自分で選べます。そして選び方で金額が大きく変わります。65歳より早く受け取る「繰上げ」は1ヶ月早めるごとに0.4%減額され、その減額率が一生続きます。逆に遅らせる「繰下げ」は1ヶ月ごとに0.7%増額。70歳まで待てば42%増、75歳なら84%増で、これも一生続きます。
健一さん
健一さん
84%増は大きいですね。じゃあ繰り下げ一択では。
倫子さん
倫子さん
そう単純ではありません。繰下げ中は年金収入がゼロなので、その間の生活費を働いて稼ぐか蓄えで賄う必要があります。つまり年金の受け取り時期の問題は、「何歳まで働くか」の問題と一体なんです。65歳以降も働ける仕事があれば、繰下げという選択肢が現実になり、老後資金の必要額そのものが小さくなる。
健一さん
健一さん
あ……だから「何歳まで働くか」を先に決めるんですね。第1回で仮でいいから決めろと言われた意味が、今つながりました。
倫子さん
倫子さん
よく覚えていましたね。働ける体と仕事は、最強の老後資金なんです。

今日やること

  • 「何歳まで働くか」の仮の数字を、年金の受け取り開始年齢とセットで書き直す
  • ねんきんネットで繰下げした場合の試算をしてみる
45歳からの家計整理——貯める前に「見える化」と「固定費」
健一さん
健一さん
足りない分は、投資とかで増やすべきなんでしょうか。最近NISAの話ばかり聞くので焦ります。
倫子さん
倫子さん
順番を間違えないでください。増やすのは最後です。先にやることが2つあります。
1つ目、支出の見える化。特に45〜55歳は教育費と住宅ローンのピークが重なる時期で、家計の実力が見えにくい。「教育費が終わる年」「ローンが終わる年」を書き出すと、たとえば「56歳から支出が月10万円軽くなる」といった未来が見えます。老後の家計は、今の家計より軽いことが多いんです。
2つ目、固定費の点検。保険・通信費・使っていないサブスクリプション。特に生命保険は、子どもが独立に近づくにつれ必要保障額が下がるのが普通なので、45歳は見直しの適齢期です。固定費の削減は一度やれば毎月効き続けます。
その上で、余力をNISAやiDeCoといった税制優遇のある制度で積み立てる。この順番なら焦る必要はありません。逆に、家計が見えていない状態で投資額だけ増やすのは、穴の開いたバケツに水を注ぐようなものです。

今日やること

  • 「教育費が終わる年」「住宅ローンが終わる年」と自分の年齢を並べて書く
  • 固定費(保険・通信・サブスク)を1つ見直す
お金の設計図が、4つの出口の自由度を決める
健一さん
健一さん
今日の話、キャリアの話とつながっている実感があります。
倫子さん
倫子さん
つなげて締めましょう。お金の設計図は、4つの出口の選択肢の広さそのものです。①残るを選ぶ人は、役職定年後の年収減を織り込んだ家計にしておけば、減額の日に慌てません。②転職では、家計の下限がわかっている人は年収交渉で腹が据わります。「これ以下では動かない」が数字で言えるからです。③複業の収入は、繰下げ期間を支える橋にもなります。④独立は、生活費の1〜2年分の備えがあるかどうかで、挑戦できるかが決まります。
健一さん
健一さん
お金の話って、我慢の話だと思っていました。でも今日のは全部、自由の話ですね。
倫子さん
倫子さん
いい言葉ですね、その通りです。お金の設計図は、不安を数字に変え、数字を選択肢に変える道具です。奥様と、今日の紙を挟んでもう一度話してみてください。けんかではなく、作戦会議になるはずです。後半戦は、ここからですよ。

この記事の「今日やること」まとめ

0 / 8 完了

  • ねんきん定期便を探す。なければ「ねんきんネット」に登録する
  • 夫婦の年金見込額(月額)を1枚の紙に書く
  • 自社の退職金規程を確認し、60歳まで勤めた場合の概算額をメモする
  • 自分の勤続年数で退職所得控除の枠を計算してみる(20年まで年40万円、超過分は年70万円)
  • 「何歳まで働くか」の仮の数字を、年金の受け取り開始年齢とセットで書き直す
  • ねんきんネットで繰下げした場合の試算をしてみる
  • 「教育費が終わる年」「住宅ローンが終わる年」と自分の年齢を並べて書く
  • 固定費(保険・通信・サブスク)を1つ見直す

転職を考え始めたら、まずは求職者登録を

45歳からの仕事研究所は、株式会社SPRINT CLIMB(厚生労働大臣許可 有料職業紹介事業 許可番号 11-ユ-301471)が運営しています。ご登録いただくと、これまでのご経験と希望条件をもとに、担当者が求人をご紹介します。求職者の方から手数料をいただくことはありません。

求職者登録(無料)