転職市場

45歳の転職は厳しい?「過去最多」と「年収減」、二つの真実

第1回の面談から2週間。健一さん(48歳・メーカー勤務の課長)は宿題だった転職サイト登録を済ませていた。届いたスカウトは12件。だが開いてみれば、営業ノルマの厳しそうな会社、畑違いの仕事、明らかに一斉送信の文面ばかり。「俺の市場価値って、こんなものですか」。少し傷ついた顔で、健一さんは研究所のドアを開けた。

この記事は4つの出口のうち「転職」を扱います
45歳の転職は「厳しい」のか「追い風」なのか
健一さん
健一さん
ネットで調べると「ミドルの転職は過去最多」って記事と「45歳の転職は厳しい」って記事が両方出てくるんです。どっちが本当なんですか。
倫子さん
倫子さん
結論から言うと、両方本当です。矛盾していません。まず追い風側のデータから。パーソルキャリアの転職サービス「doda」が発表した「2026年 ミドルシニアの転職市場予測レポート」では、ミドルシニアの転職決定者数は2019年比で約2倍に拡大し、45歳以上の転職が過去最多水準になると予測されています。リクルートのデータでは、ミドル世代の転職は10年間で約6倍に拡大しました。「35歳転職限界説」は、データの上では完全に過去のものです。
健一さん
健一さん
じゃあ「厳しい」側は何のデータなんですか。
倫子さん
倫子さん
3つあります。1つ目、そもそも動く人が少ないこと。厚生労働省の雇用動向調査ベースで見ると、45歳以上で実際に転職する人の割合は若年層よりずっと低い水準です。2つ目、45歳以上を想定した求人は、高い専門性やマネジメント経験を持つ人を対象とした比率が高く、求人数自体が他の年代より少なくなる傾向があります。3つ目、お金です。リクルートワークス研究所の調査として、45歳以上の転職者の約60%が転職後に年収ダウンを経験したと報じられています。
健一さん
健一さん
つまり……市場のドアは開いたけど、誰でも歓迎ってわけじゃない。
倫子さん
倫子さん
その通り。「門は広がったが、審査は甘くない」。これが2026年のミドルシニア転職市場の正確な描写です。

今日やること

  • 「厳しい」「追い風」どちらか片方だけを書いた記事を信じない、と決める
  • 届いたスカウトを「本気のスカウト」と「一斉送信」に仕分けしてみる
なぜ今、市場が動いているのか——黒字リストラの構造
健一さん
健一さん
そもそも、なんで急にミドルの転職が増えてるんですか。
倫子さん
倫子さん
供給と需要が同時に増えているからです。供給側、つまり市場に出る人が増えた理由は、大手企業の構造改革や中小企業の合併・淘汰です。業績が悪くない企業が事業再編や世代交代のために人員構成を見直す、いわゆる「黒字スリム化」が進んでいます。パーソルの専門家も、超大手企業が早期退職などを積極的に行った結果、ミドルシニアの転職市場が活性化し、この流れは続くと分析しています。
健一さん
健一さん
需要側は?
倫子さん
倫子さん
人手不足です。若手が採れなくなった企業が、採用の年齢幅を広げています。特に専門管理職の領域では、業務経験の少ない若手では対応が難しく、大手企業で長年培った知見を持つミドルシニアが即戦力として期待されています。会社を出される人と、経験者を探す会社が、同時に増えている。だから「過去最多」になるんです。
健一さん
健一さん
出される側と探される側、同じミドルなのに。
倫子さん
倫子さん
はい。そしてその差は年齢ではなく、経験の「持ち運びやすさ」で決まります。次で説明しますね。

今日やること

  • 自分の業界で早期退職・構造改革のニュースを検索してみる(自社の立ち位置を知る)
企業は45歳以上の「誰」を採りたいのか
健一さん
健一さん
僕に来たスカウトが微妙だったのは、僕の経歴が「探される側」に見えてないからですよね。企業は具体的に誰を探してるんですか。
倫子さん
倫子さん
エージェントの現場感覚で言うと、求められ方は3パターンです。1つ目、専門職。経理、法務、人事、情報システム、品質管理など、「その道20年」が一言で伝わる人。2つ目、管理職。ただし「部長でした」ではなく「10人の組織を立て直した」のように、何をマネジメントしたかが言える人。3つ目、これが見落とされがちですが、中堅・中小企業の「番頭役」です。大手で仕組みを知っている人に、自社の体制づくりを任せたい社長は多い。
健一さん
健一さん
でも僕、課長といっても現場と本社の調整役で、専門と言えるものが……。
倫子さん
倫子さん
それ、先々週「現場を動かせる企画者」って言語化しましたよね。調整役はスカウトの検索条件に引っかからないだけで、面接では強い武器です。
ここで大事な現実を1つ。エージェント側の実感として、40代後半〜50代については採用の成功体験が少ない企業も多く、まだ慎重な傾向があり、若い人事担当者の先入観も垣間見えるとされています。つまり書類の入口で誤解される前提で、経歴を「翻訳」しておく必要があるんです。
健一さん
健一さん
翻訳、ですか。
倫子さん
倫子さん
社内用語の実績を、初対面の他社の人に伝わる言葉に変えることです。「A事業部とB工場の橋渡し」ではなく「利害の対立する2部門を調整し、納期遅延を半減させた」。この翻訳ができている45歳と、できていない45歳では、同じ経歴でも市場での見え方がまったく違います。

今日やること

  • 自分の代表的な実績を1つ選び、社名も部署名も使わずに3行で書いてみる
  • その3行を家族か社外の友人に読んでもらい、意味が通じるか確認する
年収は下がるのか——「何と交換するか」で考える
健一さん
健一さん
正直、一番気になるのはお金です。6割が年収ダウンって数字、怖いんですが。
倫子さん
倫子さん
ごまかさずに話しますね。年収が下がるケースは確かに多い。特に大手から中堅・中小に移る場合はそうです。ただ、下がった人が全員失敗かというと、違います。見るべきは「年収と引き換えに何を得たか」です。
たとえば、55歳の役職定年で3割下がる予定だった人が、転職先で定年まで役職を持ち続けられるなら、生涯収入では逆転することがあります。65歳、70歳まで働ける会社に移るなら、働く年数そのものが収入源です。通勤時間、裁量、ストレスも交換材料です。
一方で明るいデータもあります。40代男性では転職による年収の増加額が全年代で最も高いという結果も出ています。専門性が市場のニーズに合った人は、むしろ上がる市場でもあるんです。
健一さん
健一さん
「下がるか上がるか」じゃなくて、「何と交換するか」を先に決めておくべきなんですね。
倫子さん
倫子さん
そうです。交換条件を決めずに市場に出ると、提示された年収の数字だけで一喜一憂して、判断を誤ります。

今日やること

  • 「年収が下がっても得たいもの」を3つ、優先順位をつけて書く
  • 「これ以下なら動かない」という年収の下限を仮決めする
4つの出口から見た、今の市場との付き合い方
健一さん
健一さん
市場の実態はわかりました。で、僕はどう動けばいいんでしょう。
倫子さん
倫子さん
4つの出口に当てはめます。市場を見た結果、いい求人がなく、社内に役割があるなら、①残るでいい。市場を知った上で残るのは消去法ではなく選択です。経歴の翻訳をして市場価値を測り、交換条件に合う求人があるなら、②転職を具体化する。市場評価がまだ低いと感じたなら、③複業で社外実績を作ってから再挑戦する手もあります。複業実績は45歳以降の職務経歴書で立派な武器になります。専門性への手応えと顧客の当てがあるなら、④独立の検討材料にもなります。
そして健一さん、スカウト12件で傷つく必要はまったくありません。登録直後のスカウトは機械的なものが大半です。市場との対話はここからが本番です。
健一さん
健一さん
市場に出て2週間で答えを出そうとしてました。
倫子さん
倫子さん
45歳の転職市場は、瞬発力ではなく仕込みの勝負です。翻訳した経歴で書類を作り直せば、届くスカウトの質は変わります。焦らなくていい。あなたの20年は、正しく翻訳されるのを待っているだけです。後半戦は、ここからですよ。

この記事の「今日やること」まとめ

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  • 「厳しい」「追い風」どちらか片方だけを書いた記事を信じない、と決める
  • 届いたスカウトを「本気のスカウト」と「一斉送信」に仕分けしてみる
  • 自分の業界で早期退職・構造改革のニュースを検索してみる(自社の立ち位置を知る)
  • 自分の代表的な実績を1つ選び、社名も部署名も使わずに3行で書いてみる
  • その3行を家族か社外の友人に読んでもらい、意味が通じるか確認する
  • 「年収が下がっても得たいもの」を3つ、優先順位をつけて書く
  • 「これ以下なら動かない」という年収の下限を仮決めする

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